前週までは延々と何年も何か月も全く何も変わりなかった。

それがその日唐突に急変。お稽古が始まったのと同時に先生の姿が消えた。

お稽古の内容は先週聞いていたので用意を始めたら、しばらくして先生がそろりそろりと後ろから近付いてきた。「今日もどうぞよろしくお願いいたします。」といつものように丁寧に頭を下げたところ、なんと数歩後ずさりを始めた。


裏から何かを持ってきたという様子もない。ここに何かを取りに来たということもなさそうだ。あとずさって距離をとった状態で本日の説明を早口で言い始めた。こちらに伸ばした指の先をひらひらとさせながら。こちらを軽くあしらっているようにも取れる。関わりたくない、話もしたくない、という風にも取れる。

先生のパソコンをお借りする必要があり、声を掛けたら持ってきてくださった。が、そこからも変だった。そもそも、自分の個人所有のパソコンを人に触らせた状態で、その場からいなくなるものだろうか?

さらには私が席を外して戻ってくるたびにテーブルの上に物が増えている。いつもならば必要のないものも見せてくれるために置いてくれるのだけれど、この日は必要最低限だった。

そして、私が呼びに行かない限り、姿を現すことはなかった。

最後、先生の模範と並べ比べ「(先生の模範の)これよりも上手ですよぉ~~~!!!」とテンション高く言い始めた。(んなわけ、ない。)


まあどうにかお稽古前半が終わり。後半の先生に交代すると今度は、私が退いた席に座り手作業を始めた。

ネットで調べながら作業している。「これ、手順通りにやっているのに、よくわからないのよね。」とおっしゃるので「ほんとう、難しそうですね。構造を理解したほうが早そうですね」と会話を受けたところ、午前中にこういうことをしてこんな状態になったので云々、といつものように話始めた。

「すてきですね。出来上がったら是非拝見させてください」と話を受けて自分の作業に戻った。

そのときにはいつも通りだと思っていた。普通に会話しているように感じられる。けれど、実は私のどの言葉も先生は無視していたのだと、あとになるとよくわかる出来事がその後次々と起こり始めた。

他の人たちの声掛けにはニコニコと楽しそうに受けごたえをするのだ。けれど、私の言葉には返事をしないどころか素のままで目線さえ動かさない。

最後には、出来上がった作品を持って、私の目の前を通り過ぎて、奥に消えていった。部屋は広い。だから私の目の前を通らなくても移動はできる。なのに、私の目の前を通る?出来上がったもの、見せてくれないんだ?まあ、自由だけれど。

全無視、全拒否なのだ、とわかった。


以前職場で、こういう態度を取る人と仕事をせざるを得ないことがあった。その人はひどくて「おはようございます。」の最初の挨拶さえ完無視だった。「今日は好い天気ですね」も無視。なのに、職場に戻るとほかの人に「今日は好い天気でよかったですねと話をしていたんですよ」と報告したりする念の入れよう。一事が万事この調子だった。この人と仕事をした日は、体調を崩しかねないくらい。

移動して居なくなったのだけれど、ある日、職場にやってきた。ニコニコと手を振ってきて可愛らしく会釈をし「ご無沙汰しております~~~!!!」とこちらに向かって走り寄ってきた。でも、この人にこんなふうに話しかけられた経験が一切なかった。大切なことなのでもう一度言う。1度もなかった。なのでこのときも自分に話しかけてきたと勘違いをしてはいけない、と思い。この人がこんなに愛想よく話しかける相手って誰なんだろう?と後ろにいる人たちの顔ぶれを確認した。

私に話しかけたと思わせるように話しかけてきておいて、私が反応したのを確認したうえで、実はすぐ後ろの人に話をしているのに何を勘違いしているの?という表情をして見せる、くらいのことを平気で平然と何年もやっていた人なのだ。

が、今回は誰もいない。変なの。と前を向き直った瞬間に、この人の私を思いっきりにらむ顔が目に入った。文字通り口がへの字に曲がっていた。両手は拳を握っていて震えていた。

無視したわけではなかったけれど、そのようにしか見えない結果になった。でも、この人、無視をするのは平気なのに、1度でも無視されるとこんな怖い顔をするんだ?それまで一度も無視したことがなかったので、知らなかった。

そういえば、この人、長年私を無視し続けて、私の言葉のひとことにも一度も反応したことがなく、いつも上機嫌だった。

人を無視するのって快感を伴う行為なんだろうか。


そういう人たちに対して、こちらはどうしたらよいのだろう。